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経  営


          イタリア中小企業から学ぶもの

          家族経営成功の秘訣と中小企業の世界進出



                               所長 木村哲三


 9月中旬1週間、イタリア北部の中小企業を見てきました。向研会主催の視察です。

お客様に役立つ経営のヒントをお届けします。


国に頼らない地方と中小企業

 イタリアも日本と同じように中小企業の数は多く、家族経営の企業も多いです。日本

の中小企業との違いは、イタリアの中小企業は小さくともオリジナルを大事に海外市場

に出ている点です。どの地方都市も国に頼らず、ニッチな世界一の企業群があります。


ゼニア(ビエッラ/服地、スーツ)/家族経営の要諦 ブランドになるにはここまで

やる


 北イタリアの山の街ビエッラに、スーツや生地で世界的に有名なゼニアはありました。

景色も環境も素晴らしいですが、冬には雪が積もって製品の搬入など大変そうな山の上

にゼニアの本社と工場がありました。

 花咲く庭園に面したクラシックな広間で、会長のパオロ氏からお話を聞きました。こ

の地に工場を作ったのは、この地域は水がよく、生地の洗浄には最高の場所だからとの

ことでした。初代は教師をしており、機織り機でスタートしたそうです。その次の大叔

父の代で 最終製品まで手掛け、3代目のパオロ会長の世代が世界直営展開を始めたとの

ことでした。先を見越してのビジネス展開、基本に戻り最高の素材、人材、マシンをそ

ろえ全世界を見てビジネス展開をしているとのこと。羊毛の選定から最終製品のスーツ

まで一貫して製造していることで、本当によいものが作れるとのことでした。「最高の

素材は優れたデザインを、最高のデザインは優れた素材を求める」

 家族経営で大事なことはと会長に尋ねると、それは情報共有で、常に自分の考え、起こ

っていることを後継者たちに話し伝えることとの答えでした。透明な情報公開が一番大

事との答えは納得です。新しい経営陣は伝統に新しいものを加える義務があるそうです。

ゼニアの一員である誇りも教えるそうです。子供たちがゼニア以外の道を歩みたいとい

う時は、とことん話し合って、結果として他の道もあるとのことでした。

 工場見学では出来上がった生地の検査を丹念にしている職人さんも目にしました。修

復不能なものはどうするか聞いたところ、不良なものを販売することはできないので、

そういったものは修道院等に寄付するとのことでした。社会貢献とブランド維持ができ

ますね。織っている生地のブランド名がゼニアではなく、アルマーニのものを見つけた

ので尋ねると、OEMも作っているとのことでした。

 羊毛からの一貫生産の生地をつかったスーツブランドはもうあまり無いようで、今後ま

すますゼニアのブランド価値は上がっていくように予想されました。服地にネームを入

れるのはゼニアが始めたことで、最終製品に入れています。

 海外進出では、パイロット店を出してその状況を見て決めるとのこと。その地のビジネ

スマンが、すでに海外出張などでゼニアの価値を知っているとうまくいくとのことでし

た。

 ゼニアは地域貢献もしっかりやっていました。ビエッラの町への寄付やビエッラの山

を再生するために50万本の植林もしたそうです。支援された若者がイタリアに戻る条件

のファウンダーズ・スカラシップにゼニア財団から百万ユーロ寄付したそうです。


 ゼニア社長の話の中で、ゼニアの一員になる誇りを教えること。後継者候補への現経

営者の考えを含め全ての情報を伝えること。これらは家族経営にとって大事な点と思い

ます。現状を知らなければ次世代が未来像を描けません。

 また、三代目なのでいとこ同士が経営に携わっているのですが、会長は二代目の長男

の息子、社長は二代目の次男の息子です。長男の直系重視では無く、そのほかの子ども

たちも要職に就き、いとこ同士が上手に役割分担しています。役職は透明な業績評価で

決めているそうです。配当と違い、年俸は競争とのことでした。この辺も家族人材の生

かし方で大切と思います。


パルミジャーノ・レジャーノ(パルマ/チーズ)とプロシュット・ディ・パルマ(パ

ルマ/生ハム)/地域特産品ブランド化の秘訣


 北イタリアのパルマにあるチーズ工場と生ハム工場を視察しました。チーズも生ハム

も、どちらもローカルな企業群がまとまって、厳格な製法を守り、その製法通りに作っ

たこの地域の製品に認定の原産地刻印(DOC)を押しています。

 私が視察したパルマのチーズ会社の工場では、自主的にチーズの中身の密度をはかり不

良なものは除外していました。その日にとれた生乳を使うので朝5時から夕方5時まで、

オーナー家族で毎日チーズづくりです。大変ですが、チーズはブランドが確立している

ので、高値で販売され、経営は長期的に安定しています。とはいえ、毎日大変なので後

継者のぼやきはありました。

 生ハム工場では、ハムとなる豚の後ろ足が大量にぶら下げられていました。ここも家

族経営です。チーズと同様、原産地刻印が押され、パルマブランドで輸出が3割を占め

ます。

 どちらも、原料を含め製法を確立し自主確認で品質を保ち、そのおいしさにブランド名

を冠して地域の中小企業群で世界展開しています。

 日本の農産物もおいしい良いものはたくさんあります。野菜や肉の特許はとれません

が、原産地ブランドはできます。東総地区でも品質・製法・基準を決めて、要件満たす

ものに原産地刻印を押し、ブランドを確立して海外展開を試みたいものです。


モンクレール(ミラノ/ダウンジャケット)/差別化とは

 BE UNIQUEが社是。better than Feather(羽毛)で超軽量ダウンジャケット中心に

ワールドワイドに200店舗展開。

 ミラノのきらびやかなショールームで今年のモンクレールの新作を見て、お話をお聞

きしました。1952年に山登りする人のために生まれた製品。その生い立ちから、女性靴

で例えれば自分たちがハイヒールを作っても意味はないので、体をプロテクトする衣類

をモデレートしていきました。

 2つの矛盾する要素を結びつけることが成功の秘訣でそれは機能性とファッション性

の融合。モンクレールの機能性はグルノーブルオリンピックのフランスのスキーチーム

で有名になりました。ダウンジャケットは機能性だけが注目され、これにファッション

性を加えた製品はありませんでした。差別化での成功の典型例です。


コモシルク記念博物館(コモ)/ブランド化は逃したが有力ブランド御用達で生き残り

 コモシルク記念館でコモシルク企業の歴史と現状を聞きました。

 生糸を輸入して、唯一絹織物工業が生き残っている地域がコモ。日本のシルクは養蚕業が

だめになり、絹布生産もやめてしまいました。コモシルク成功の秘密は絹織物業800社がイ

ンサイドの熾烈な競争で切磋琢磨していること。難しいデザイナー注文にも応じられるので、

フランス、イタリアの有名ブランドが注文してくる。中国は大量生産、自分たちは、小ロッ

トでクイックレスポンスが売り物。コモは、最終ブランドが強い現在の状況に適応しました。

強力なブランド会社の要求に応えることができるのが強みで、世界最高ブランドの会社から

守秘と時間厳守で信頼され依頼されています。コモの絹織物就業者は、30年前は3万人、今

は1.8万人で生産量は下がっているが売上額は上がっています。

 コモで作ったシルク製品をブランド各社は3〜5倍で販売しています。ここでも、デザイ

ン、ブランドが大きな利益を獲得していました。

 大前研一さんにブランド作りの定石はあるかとお尋ねすると、「定石なし。強烈な個人が必

要」とのことでした。また、コモがOEMを脱却してデザイナーを雇ってブランド化をする

のは、時機を逸したとのご意見でした。


Unindustria Treviso&Tecnica(トレビッゾ経済団体)/地域クラスター

 北イタリアのトレビッゾは、ドイツ企業の下請けとして製造業発展。品質がいいので購入

が続き、頼まれたものを作っているうちにブランドができてきました。これがトレビッゾの

中小企業の発展の元になりました。現在1兆4千億円の工業生産高で製造のクラスターがで

き、地域の歯車が上手く回っている。30%が輸出とのこと。以下トレビッゾの製造業各社。


テクニカグループ(トレビッゾ/スノーブーツ)/チャンスを生かし戦略的買収で拡大

 Zanatta社長のお話を聞きました。テクニカは彼の祖父の雪靴修理からスタートし、

父はスノーブーツへ。1970年アームストロングの月面歩行を見て、父は軽いスノーブー

ツ思いつき、開発発売。100年に一度のチャンス、その興奮を利用し「ムーンブーツ」

と命名し販売。発売タイミングと秀逸ネーミング、カラフルさでアフタースキーシュー

ズの世界市場を席巻。新しいスノーブーツ企業テクニカへ。ムーンブーツの成功資金で

スノーブーツという冬期限定製品からの脱皮、製品分野はウィンター&アウトドアスポ

ーツ。買収で4つのカテゴリ、スノーブーツ、登山靴、スキー、ローラーシューズに拡

大。

 周到な拡大、買収戦略がその歴史から解ります。

 1985 ハイキングシューズ発売 カラフルなデザイン 冬以外の製品へ

 1993 LOWA買収 ドイツ企業 登山シューズ

 1998 Dolomite買収 世界一古い登山靴会社買収 K2登った人が履いていた名門

 登山靴販売では世界3位に

 2002 NORDICA買収スノーブーツとスキー 日本進出

 2003 ROLLERBLADE買収 米国企業 夏も売れるローラーブレイド 冬にとらわれない政策

 2006 BLIZZARD買収 オーストリア企業 スキー 

 今年、400数十億円の売上達成予定。今では、テクニカのブランドは売上の16%を

占めるだけです。買収企業は皆成長しています。その秘訣は、テクニカのブランドは使

わず元のブランド名を残しそのブランドを生かすこと。ナイキは買収会社名もナイキに

替え、結果として買収会社を生かす事ができなかったようです。とはいえ、買収した各

社のコントロールは難しくコンサルタントも入れているそうです。また毎月14の経営

指標(例 マージン オーダー etc.)で経営を見ているそうです。

 家族経営とグローバル化については、グローバル化は生きるか死ぬかで、ファミリー

以外にも外部の有能な人を入れる必要があるそうです。新たな買収のためIPOも検討

中とのこと。

 家族の人材の豊かさにもよると思いますが、テクニカの場合はグローバル化、公開企

業化で家族経営の方針堅持は難しくなっているようでした。ゼニアのように後継者とな

る家族集団はいないようです。


CAME(トレビッゾ/警備機器)/家族経営・地元主義

 警備機器会社のCAMEはトレビッゾの会社。創業会長曰く「僕がトレビッゾにいる

から、ここで生まれたから、ここでやる」。こういった企業が地方を活性化させていま

した。成功のポイントは先を見越し、常に高いところを目指し、便利さと安全性では追

随を許さないこと。家庭、病院、空港のセキュリティに強いとのこと。

 ファミリー経営でお孫さんにあたる若い女性が展示場を案内してくれましたが、そ

の方が次の経営者とのことでした。企業は人が作る。人の活用では、チームは皆仲間で

ヒエラルキーはないそうです。


TEXA S.pa(トレビッゾ/車のセンサー)/問題点を解消し飛躍

 1992年創業、売上90億円、従業員500人の車のテスター機器会社。

 創業社長にお話を伺いました。成功の鍵は次の通り。車のセンサーは、車種が違ったらイ

ンターフェースは同じではないので一車種につきそれに合うセンサーが必要。そこで一台の

センサーで全ての車種に対応できないか考えました。コネクタとプロトコルの関連を考えて

一つのセンサーでほとんどの車種(95%のヨーロッパ車種)に対応できた。これが修理工の

需要に合致し、会社が伸びました。200の電子部品の問題点解明し、タイヤの診断修理もで

きる。今後は スマホでデータ入手しリモートで直す。ジャーマンクオリティ、イタリアンテ

イストでいく。センサーはブラックボックスで模倣はできません。

 ここの創業社長もこの地の出身で、地域に根ざしてここで事業展開しているそうです。


ALF(トレビッゾ/家具)/お客様をいい気持ちにさせることがモットー

 1951年創業のファミリーカンパニー。最初から家具輸出、見本市重視、従業員350人、

コラボレーター2000人。家具の輸出はイタリア全輸出の2位。

 オーナーのOLIVIERO氏はお客さんをいい気持ちにさせるのがモットー。これは全員が

共有しているので、品質管理しなくても、自然に品質維持されるとのこと。AFLのブランド

は、何が他社の家具と違うのか。売りから入るので、すべての客を社員が知っていることが

一つ。メイドインイタリーを押し出していること。また、輸出国別に家具は違うので、その

国の顧客の心に訴える製品を目指す。ベニス出身の人間は海洋スピリットありで海外展開。 

 家具輸出は回収サイトが長そうなので資金調達について尋ねると、自己資金で十分やって

いけるとのこと。その理由は、輸出した5日後に入金されるからとのこと。製品の強さ故可

能なのかと思いました。

 回りきれないほど広いショールームを見て回ると、伝統的な家具から超近代的なものまで

幾通りもの家具セットをそろえていました。日本でも販売しており好評とか。どのランクの

客を想定しているかの質問には、フェラーリではなく、ベンツの層との答え。顧客が気持ち

よく感ずるクオリティを保ち、イタリアブランドを生かし、一定の量をそれなりの価格で売

る方向性のようです。


 読まれた方に何か一つでも経営に役立つ気づきがあれば幸いです。     



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