前のページへ  木村会計 The Sky's The Limit No.167 Page 3  次のページへ


経  営


           ディズニーアカデミー研修レポート


                          税経管理第11部 部長 佐藤


  4月8日に東京ディズニーリゾート(TDR)

 が主催する「ディズニーアカデミー研修」に社

 員一同参加しました。TDRは、『日本版顧客

 満足度指数(JCSI)』(サービス産業生産性

 協議会が実施)で2013年度は首位、2014年は

 劇団四季に次ぐ2位と、その顧客満足度の高さ

 には定評があります。顧客満足度で常に日本で

 1、2を争うディズニーの秘訣を垣間見ること

 ができましたので、お伝えいたします。

 「ディズニーアカデミー研修」のプログラムの目的は、次のとおりでした。

  ・ディズニーテーマパークで実践している『おもてなし』に対する考え方や取り組みを

   理解する。

  ・自社に活用できる気づきを得る。


ディズニーテーマパークとは?

 ディズニーは、アニメーション映画の製作からスタートし、当時の新技術を次々に取り入

れ成功を収めました。その後、「ファミリーエンターテイメント」を基本コンセプトに、テ

ーマパークを作りました。当時は、親と子が一緒に楽しめる場所がなかったため、自分で作

ることにしたそうです。一種のイノベーションです。

 パークは青空を背景とした巨大なステージであると考え、そこから「ゲスト」(顧客)、「キ

ャスト」(従業員)やカストーディナリィ(清掃係)という呼び名が出てきます。

 「キャスト」(従業員)のゴールは、「ゲスト(顧客)に『ハピネス』を提供する」こと

定義しています。

 基本理念と目的を明確に設定することで、キャスト(従業員)がみな同じ方向を向いて、同じ

目的のために働くことができるようになります。


ディズニーテーマパークの行動基準

 ディズニーのサービスの基本は、「SCSE」という次の4つの鍵です。

 S=Safety 安全 (最優先)

 C=Courtesy 礼儀正しさ (相手の立場に立ったおもてなし)

 S=Show ショー (体験することすべてがショーの一部)

 E=Efficiency 効率 (ゲストの貴重な時間を無駄にしない)

 上から優先順位がつけられ、「安全」が最優先されます。キャスト(従業員)はこの行動

基準に沿ってゲストサービスを行います。連絡方法などの従業員マニュアルはありますが、

サービスやおもてなしのマニュアルはありません。しかし行動基準と優先順位が明確化され

ていることで、キャスト(従業員)はそれに従って自ら判断し臨機応変に行動します。



ディズニーテーマパークの行動とは?

 会社の考え方をまとめると、

・ゴールは「ハピネス」を提供すること

・ハピネスを提供するための行動基準が「SCSE」

というシンプルなものです。

 例えば、カストーディナリィ(清掃係)が、ポップコーンがこぼれて散らかっているのに

気づいたときに、ゲスト(顧客)から「写真を撮ってください」と頼まれたとしたら、どう

行動をするか。キャスト(従業員)はそのときどきの状況に応じて自分で判断します。状況

が違えば答えも違います。画一的なマニュアルはむしろ有害になります。キャスト(従業員)

は、「SCSE」を軸にして自分の頭で考えてその時のベストの行動をとります。

 それでも失敗することもあります。ポップコーンをこぼした子供に、替えを無料であげよ

うとしたら、そのお母さんから「あげないで」と注意されたそうです。理由を聞くと「失敗

がすぐに帳消しになるように大人が手助けすると教育上よくない」から。先入観や思い込み

が原因で失敗することもあります。しかしその失敗例も会社全体で共有します。

 マニュアルがないことは、会社が一定の判断をキャストに委ねることとも言えます。する

とキャストは「任されている」という意識を持ち、自発的に行動し始めて、経験を重ねなが

ら一人前のキャストに育っていくといいます。

 これらを日々積み重ねて33年間続けてきた結果が、現在のサービスになっています。


 TDRの従業員は20,000人、うち9割の18,000人がパートタイムだそうです。にも関わ

らず顧客満足度を高レベルで維持できるのは、「SCSE」という行動基準の浸透に秘訣が

あると思いました。

 また、全員に浸透し共有できるためにはシンプルでありわかりやすいこと、覚えやすいこ

とが重要なのかもしれません。ディズニーでは「ハピネス」と「SCSE」という2つのキ

ーワードが、顧客対応の全てを表しています。

 また、この2つのキーワードを33年間ひたすら磨き続けたことによってサービスが成り

立っていることが、他には容易にまねのできない強みだと思います。


その他(質疑応答内容、実地案内・インタビューなど)

・上記のやりかたが合わないキャスト(従業員)はどうするのか、という問いには、指導し

 ても直らない場合は異動してもらう、とのことでした。サービス業では、価値観の共有が

 質の高いサービスを提供するキーだと思いました。

・各国のディズニーランドで同じ取り組みをしているのか、という問いには、SCSEは各

 国共通だが日本は日本流にアレンジしている、とのことでした。東京に比べて外国のディ

 ズニーランドの評判は芳しくありません。「心配り」や「おもてなし」は、やはり日本人

 の気質にあっているのかもしれません。

・エリアや部署ごとの派閥争いはあるか、との問いには、やはりあるとの回答でした。しか

 し正社員を一つの部署に固定せず頻繁に異動させることで、縄張り意識を減らすとのこと

 です。これは同時に経験知や情報の共有にも役立つと思いました。

・外国人観光客が激増しています。キャストは、英語や中国語を話せなくても指をさすだけ

 で意思伝達ができるA4用紙数枚の冊子の案内を利用しています。このアイディアは従業

 員からボトムアップで上がってきたものだそうです。現在は一部のキャストしか使ってい

 ませんが、いずれは全社的に使用するかもしれないとのことでした。現場の意見をうまく

 生かす仕組みがあります。

・2015年の顧客満足度指数ランキングでは、TDRは11位と、トップ10から外れました。

 2年連続となる値上げと、入場者数が大きくなりすぎて頻繁に混雑することによる「失望」

 が原因と言われています。それにも関わらず2016年もさらに値上げに踏み切りました。

 混雑緩和と新アトラクションへの投資資金の確保、キャストの人件費増への対応が理由と

 言われています。この経営判断がどういう結果になるか、注目したいと思います。


 この研修を受けて木村会計グループでも新たに「ゴール」と「行動基準」を設定しました。

「ゴール」  :お客様と私たちの喜び

「行動基準」 :CSCS

  C=Compliance 法令順守

  S=Solution 問題解決(専門知識と知恵による問題解決)

  C=Comfortableness 心地よさ(木村会計全経験を心地よく)

  S=Speed すぐやる(行動こそ全て)

 全社員で取り組んでまいりますので、よろしくお願いいたします。


参考文献:福島文次郎『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』中経出版




前のページへ  木村会計 The Sky's The Limit No.167 Page 3  次のページへ