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税  務


   相続税・贈与税の改正とその対策(平成27年1月1日適用)


                     税経管理第1部 部長 宇野澤


T 相続税・贈与税の税率改正について


 平成27年1月1日以降相続開始から、相続税の取り扱いが変わりました。

 具体的には、40%カットの「基礎控除額」の引き下げや、最高税率55%の引

き上げ等、相続税の増税がスタートしました。

 一方で、若年世代へ資産移転を促進するため、贈与税率の引き下げや税率構

造の見直し等、贈与税の緩和も行われました。

 相続税「基礎控除の改正について」…従前の60%(4割カット)に引き下げ

られました。

  平成26年12月31日まで…「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」

  平成27年1月1日以降… 「3,000万円+ 600万円×法定相続人の数」


(1)「相続税の税率の改正について」

 6億円を超える部分について税率が55%に引き上げられました。それだけで

なく、2億円超3億円以下の部分についても、改正後は40%から45%となり、

6段階だった税率構造は8段階に細分化されました。


*相続税はこれだけ増える(一次相続の場合)

遺産の総額 改正前 平成27年1月以降 増税額
8,000万円 0円 175万円 175万円
1億円 100万円 315万円 215万円
2億円 950万円 1,350万円 400万円
3億円 2,300万円 2,860万円 560万円
5億円 5,850万円 6,555万円 705万円
10億円 1億6650万円 1億7810万円 1,160万円

(前提条件)相続人は母と子2人、配偶者の税額軽減を適用、法定相続分で分割


*今回の相続税改正により、増税になったので、「二次相続」まで視野に入れる一

時相続対策が必要となります。

一次相続では、配偶者が相続した財産が法定相続分または1億6,000万円のどち

らか多いほうまでなら「配偶者の税額軽減の特例」が適用されますが、二次相続

では、法定相続人が減ることによって基礎控除額が下がります。その上「配偶者

の税額軽減の特例が適用されないため、相続税が大きくなります。


今回の相続税制の改正によってどのような影響があるかを検討します。

相続税シミュレーション(一次相続と二次相続の相続税額)

遺産(課税価
格の合計額)
一次相続 二次相続
改正前 改正後 改正前 改正後
6,000万円 0万円 60万円 0万円 180万円
8,000万円 0万円 175万円 100万円 470万円
1億円 100万円 315万円 350万円 770万円
2億円 950万円 1,350万円 2,500万円 3,340万円

(2)「贈与税の税率の改正について]

 相続時精算課税制度を利用しない通常の贈与(暦年贈与)の最高税率が50%から

55%に引き上げられるほか、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の方が

直系尊属から受けた贈与については、通常の税率より贈与税が軽減となります。

改正後「1」
通常の贈与
改正後「2」
直系尊属からの贈与
基礎控除後の課税価格 税率 控除額 税率 控除額
200万円以下 10% 0万円 10% 0万円
200万円超   300万円以下 15% 10万円 15% 10万円
300万円超   400万円以下 20% 25万円
400万円超   600万円以下 30% 65万円 20% 30万円
600万円超  1,000万円以下 40% 125万円 30% 90万円
1,000万円超 1,500万円以下 45% 175万円 40% 190万円
1,500万円超 3,000万円以下 50% 250万円 45% 265万円
3,000万円超 4,500万円以下 55% 400万円 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

 *子や孫に対する贈与税の税率緩和 (上図税率・改正後「2」参照)

 高齢者が保有する資産をより早期に若年世代に移転させ、その有効活用を通じ

て経済の活性化を図ることを狙い、20歳以上の子や孫が直系尊属から財産の贈与

を受けた場合の贈与税については、優遇税率が適用されることになりました。


U 相続対策

 相続税を節税する方法に@「課税財産を減らすこと」+A「評価を下げること」

の組み合わせで節税する方法があります。

(1)生前贈与

 @の「課税財産を減らす方法」として「生前贈与」があります。

 生前贈与は、今ある財産を相続人や相続人以外(孫など)に贈与することによ

り、相続財産の絶対量を減らす方法で、相続対策の基本となります。

 贈与税は相続税にくらべて税負担が非常に重いが、贈与税の特徴を理解するこ

とが生前贈与をするポイントになります。

 早くから、長期間で、できるだけ多くの人数に贈与すると節税効果が高いです。

 @ 非課税枠110万円は、一人あたりの金額です。

 A 毎年利用できて、年齢制限はありません。

 B 孫などの法定相続人以外も利用できます。

 C 死亡する3年以内に法定相続人に贈与した財産は、相続の対象となります。


――「幼少の孫に対する贈与について」――

 祖父から幼少である孫に贈与する場合、祖父の贈与の意思表示に対する受贈を

承諾する意思表示が困難であり、民法549条にいう「諾成契約」としての贈与が

成立しているとは言い難い状況にあると考えられます。

 しかし、孫の近親者である父母が民法824条に規定する財産管理権と代理権を

行使して、祖父から贈与を受けた財産について管理行為を行うことで、幼少の孫

に対する贈与は成立することが考えられます。

 民法818条=成人に達しない子は父母の親権に服する。

 民法824条=親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法

律行為について、その子を代表する。


――「贈与の注意点1」――

 イ. 親子間での贈与は振込みにして、贈与契約書を作成しておく。

 ロ. 贈与で貰った現預金は、その受贈者(もらった人)が自由に使える状態に

  しておく。

 ハ. 子や孫の名義の印鑑や通帳を親が保管している状態では、贈与とはなりま

  せん。←税務調査のとき受贈者が保管しているか確認されます。注意して下

  さい。


――「贈与の注意点2」――

「連年贈与」は「定額贈与」とみなされる可能性があるので、注意が必要です。

税務署は「向こう10年間にわたり、毎年110万円、合計で1,100万円の贈与を

した場合、最初の年に1,100万円贈与した」とみなして、高額の贈与税を課税

してくる恐れがあります。

 これを回避するには、贈与する財産の内容や金額を年によって変えるなど不

規則性をもたせるほか、毎年、契約書を作って贈与する。(できれば、公証人に

確定日付を付してもらい、公的に日付を証明してもらう方法があります。)


(2) 配偶者への不動産贈与

@の「課税財産を減らす方法」として「配偶者への不動産贈与」もあります。

 妻には生前にも贈与の特例があり、婚姻期間20年以上の夫婦の間で、居住用

不動産を贈与した場合には、2,000万円(実際には基礎控除の110万円を加えた

2,100万円)までは贈与税がかかりません。

 贈与税の配偶者控除の適用を受けた贈与は、たとえ3年以内の贈与であって

も加算の対象になりません。

 したがって、相続開始の年に行われた贈与の場合でも有効です。


――贈与税の配偶者控除を受ける条件――

 @結婚した日から贈与した日までの婚姻期間が20年以上あること。

   戸籍に入っている期間で計算します。

 A贈与財産が居住用不動産、又は居住用不動産を取得する金銭であること。

 B贈与された配偶者が、翌年3月15日まで住んでいること。

 Cこの特例を受ける旨の贈与税の申告書を税務署に提出すること。

   自宅の評価が2,110万円を超えている場合は、自宅を共有することにして、

  共有持分を贈与すればよいでしょう。

   なお、居住用不動産を売買したときの譲渡所得の3,000万円特別控除の

  適用を受けることが出来るのは建物の所有者ですからいつか売却するかも

  しれない場合は土地だけでなく、建物も贈与しておいた方が良いと思われ

  ます。


  以上 生前の節税対策で「課税財産を減らす方法」を二点ほど挙げまし

 たが、他にも@生命保険を用いた生前贈与、A一代飛び越し贈与、B住宅

 資金贈与、C教育資金の一括贈与、D結婚・子育て資金の一括贈与、E相

 続時精算課税贈与等が考えられます。相続対策は、長期間かけるほど効果

 がでますので、早めの対策をお進めします。




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