〈農地等の納税猶予制度とは〉 〈納税猶予制度を取り消されてしまう主な状況〉 途中で農業をやめてしまったり、対象とした農地を売却してしまっ たりすると、この猶予制度は取り消されます。その時点で、本来の相 続税を納めなければならなくなります。 ●適用農地の20%を超える部分を貸したり売却したり、農業以外 に転用したりした場合(20%以下の売却では一部取り消し) ●3年ごとに税務署に出すべき「継続届出書」を提出しなかった場 合等 本来の相続税に加えて、猶予の開始日から取り消された時点までの利子 税も課されます。 〈猶予取り消しでは相続税に利子税も加算される〉 農業を相続した人がその後農業を継続する限り、本来納めるべきそ の農地の相続税が免除になる制度です。サラリーマンが農業を受け継 ぐ際も含まれます。すべての農地で適用できる制度ではなく、特定市 街化区域内の農地については原則適用できません。 適用を受けるには、申告期限内に市町村の農業委員会が発行する 「相続税納税猶予適格者証明」等を相続税申告書と共に税務署に提出 する必要があります。適用が可能な際でも、受けるための要件は厳し いです。 上記の 1 は前の代の相続税は消えますが、新たな相続税が発生しま す。 2 は改めて、農地等の納税猶予制度を利用する形でそのまま継続 できます。その際、贈与時に担保などを税務署に差し出すことが求め られます。 3 は適用区域が市街化区域内などに限られます。 Sさんの農地がある春日部市は特定市街化区域内農地ですので、原則と してこの制度を受けることができませんが、特定市街化区域内農地のうち、 都市営農農地等で一定の要件を満たす場合のみ適用ができます。この農地 はこれに当てはまると思われます。300㎡の売却を検討していますが、こ れは対象農地全体の 20%超にあたり、納税猶予全体が取り消されます。 売却面積を 200㎡以下に抑えることができれば、その分の猶予取り 消しで済むはずです。また農業を続けて 20 年近い場合は、売却を 20 年経過の日まで先延ばしするのも一案ですが、Sさんのように都市営 農農地等を相続した人は対象外です。 1.相続した本人が亡くなった場合 2.相続した人が次の相続人(子や孫)に一括贈与した場合 3.相続税の申告期限から農業を20年間継続した場合(地域は限定) 〈冒頭のケースの解説〉特定市街化区域での売却は税猶予難しい 〈冒頭のケースの対応策〉売り地を狭める、あるいは先延ばしする 〈納税猶予が終了し、以前の相続納税の件もなくなる主な状況〉 猶予農地の貸し出しが可能になる道 2009年の改正で、この納税猶予の適用を受けている市街化区域 外の農地等を貸し付けたときは、納税猶予が継続される制度が開 設されました。 これは、適用を受けている農地等の全部または一部を「農業経営 基盤強化促進法」に規定する事業に対し貸し付けたときは、引き続 き納税猶予が継続できる制度です。 各都道府県に1つ設けられた 農地中間管理機構を介するのが一つの方法です。 その際は、都道 府県に相談してみるといいでしょう。 税務のプロが語る 「知っ得話」 第2章 〈ケース〉 Sさんは埼玉県・春日部にある農地 1000㎡について、 父(故人)を継いで野菜などを作って収入を得ています。農業相続人 が農地等を相続した場合の納税猶予の特例を利用しています。先ご ろ、この農地のうち300㎡について売却の話が持ち上がりました。 好条件での売却であり、とても悩んでいます。 春日部で納税猶予を受けている農地 近郊農業の農地編 10 2