前のページへ  木村会計 The Limit of The Sky No.104 Page 3  次のページへ


I P O

              転ばぬ先の知恵   第3回 資本政策 

      −公開してもお金持ちになれないこともある−

                          所長 木村哲三


 公開ブームです。土地長者の時代は去り、今は株式を公開し創業者利益を

取った人たちが所得番付上位を占めています。

 資本政策とは、公開時の株主構成、その持ち株数と比率、目標発行済株式

数を決めて、公開に向け各種の増資方法を実行していくことを言います。創

業者のキャピタルゲインと支配権のトレードオフ関係をどうするかがポイン

トです。資本政策により、公開時期や公開後の株価が影響を受けます。


 公開時にたくさんの創業者利益を取るには、たくさんの株を放出しなくて

はなりません。そうすると、創業者利益は取れても、持ち株数が減り、会社

をコントロールすることが難しくなります。逆に創業者の持ち株比率が多す

ぎる場合には、IPO後の株式の流動性が悪くなるという問題もあります。

 公開利益目当てのIPOでは、創業メンバーが、公開時に株をほとんど売

って引退するというケースもあります。その会社が優れた価値あるものでも、

経営者不在では公開後の株価は低迷します。こういったケースでは、プロの

経営者にバトンタッチして公開するか、新規事業を探している資金の豊かな

会社にM&Aしてもらうといった方法が有効です。弥生がライブドアに買収

された際の買収価額は、230億円でした。IPOより弥生のオーナーにと

っては、実入りが良かったと思います。


 公開前に資金が不要ならば、資本政策は難しくありませんが、研究開発型

の企業など巨額資金を必要とする会社は、公開前の資金調達が必要です。公

開前にベンチャーキャピタル等に資金援助してもらい、株式を安値で大量に

売却してしまうと、公開時に創業者利益を取れなくなります。持ち株パーセ

ントが低いと、創業者といえども株主総会で追い出されてしまうこともあり

ます。

 シリコン・グラフィック社を創業したジム・クラークは、ベンチャーキャ

ピタルの支援を受け、株を公開前に大幅に放出したため、IPO利益も取れ

ず、その後、経営者も追われました。その教訓から、次に創業したネットス

ケープ・コミュニケーションズ社では、資本政策を研究し、持ち株数を落と

さず公開し、巨万の富を得、支配権も温存しました。


 以前日本では、1株5万円の額面株式の制約があり、創業者が株数を増や

すには、資金を調達して増資する制約がありました。資金調達できないと、

自分の株数を落とすこと無しに株数、資本金を増やすことが出来ませんでし

た。

 平成13年10月施行の商法改正で、株式は全て無額面株式となり、創業

者の資金調達の呪縛が取れました。資本金1千万円の会社は、それ以前は5

万円株200株でしたが、改正後は、無額面で、株数を100万株として、

1株あたり資本金を10円とすることもできるのです。その後、会社の価値

が上がってきたら、1株1万円で増資すると、1千万円増資しても、株数は

千株しか増えません。0.1%の株数の増加ですので、支配権には影響なく、

創業者利益も取れます。もちろん、増資の株価は会社の価値によって決まり

ますので、高成長会社でしか高い株価での増資は出来ません。増資に応じる

側も、公開時には増資株価の何倍かに株価は上がるとの予測の元に出資する

わけです。

 無額面株式の導入で、資金はなくても、オリジナルな他社の真似できない

価値あるサービス、技術、製品を持った会社は、資本政策さえ間違えなけれ

ば、事前資金調達、創業者の公開利益と支配権の温存が図れます。

                             2005.08.16



前のページへ  木村会計 The Limit of The Sky No.104 Page 3  次のページへ