債権者から相続分に応じた債務の請求をされたとしても、拒むこと
は難しいのです。これは過去の判例でも指摘されています。
債権者の承諾があれば、特定の相続人に債務を引き継がせる旨の債
務引受契約をする「免責的債務引受契約」の手法があります。債務を引
き受けた相続人のみに返済義務が生じ、それ以外の相続人に対して債
務の請求はされなくなります。ただし、相続人だけでまとめ上げても
認められません。承諾するかどうかは、債権者の側が判断します。
〈債務の請求からは原則、逃れられない〉
〈免責的債務引受契約 〉債権者の承認を得て、1 人に返済集中させる
最後の手の一つに「相続放棄」あり
Aさんの妻の父でオーナー社長だった方が亡くなり、妻の兄であ
る長男のBさんが会社の経営を引き継ぐことになりました。
この会
社は赤字続きで、かなりの借金がありました。
個人で連帯保証もし
ています。
Aさんとお会いした際に、その話になって「うちの妻はもう義父の
興した事業には『私は関係ないから大丈夫』って言うけど、どうなの
かなと思って」といいます。
税務のプロとして「いや、関係は切れませんよ」と申し上げました。
「もし会社が倒産ということになれば、2人の相続人の1人として、借
入金残高の2分の1に相当する債務返済請求がくる可能性がありま
す。なぜなら、会社の借金をお父さんが連帯保証しているからです」
と話しました。
それを聞いたAさんは「どうしたらいいんだ」と慌てました。
「
相続放棄
という手立てがあります。お亡くなりになったことを知
った日の翌日から3カ月以内にその手続きをすればよいです」と教
えて差し上げました。
Aさんは「そうか、すぐに妻に伝えよう。どうせ財産はもらわない
のだから、損もないわけだし」と急いで自宅に戻って行きました。
税務のプロが語る
「知っ得話」
第3章
相続した土地に担保や抵当権が設定されていたら、それは何らか
の債務があるということです。この場合、相続人による遺産分割協
議で、不良資産となっている土地を誰か 1 人に集め、「自分にはもう
関係ない」と逃れることはできません。その人が債務返済不能であ
れば、他の相続人に請求が回ってきます。遺産分割の前に債務の明
確化と扱いを決める必要があります。
担保や抵当権付きの土地の相続
担保や抵当権付きの遺産
2
〈債務は遺産分割協議の対象外〉資産から債務を引いた額で分割
〈返済できない手法は認められない〉不良資産の押し付けは不可
たとえば相続人のうち返済能力のない人に担保や抵当権の付いた土
地を相続させ、他の相続人が積極財産を相続すると決めたとしま
す。これは、債権者側である金融機関などの承諾を得ない限り認めら
れません。
遺産分割の対象となるのは、正の価値のある積極財産だけとなり、
亡くなった人が負担していた債務は、遺産分割の対象となりません。
債務は、相続開始の時点で、各相続人にその相続分に応じて当然に承
継されているとみなされています。むしろ債務があれば、相続財産全
体から差し引く(債務控除)ことができます(
第3章-3
参照)。まず債務
の内容と金額を整理することが要請されます。その上で、分割協議で
は債務控除した後の積極財産の分け方を相談するのが適切です。
3
い
ざ
相
続
に
直
面
緊
急
時
の
ノ
ウ
ハ
ウ
と
税
務
対
策