オーナー経営の場合、オーナーが亡くなった後、後継者と決めてい
た人に株式を十分に引き渡すことができず、経営権が分裂して争いに
なることがあります。遺言があっても、後継者以外の相続人の配偶者
や子らが、自分の最低限度の遺産取り分を求める「遺留分減殺請求」
を持ち出して、株式の奪い合いになることもあります。後継者への会
社株式の引継方法は慎重に検討し準備しておくことが肝心です。
問題のある相続人に対しては「欠格」や「廃除」という民法上の処置があり
ます。家庭裁判所に申し立てる手続きが必要で、審判か調停で決まります。
遺産分割が済んでいないと原則として預貯金は引き出せません。不
動産の利用や売却にも制限があります。訴訟ともなれば弁護士費用も
かかります。
廃除は、手続きを生前に行うこともできます(生前廃除)。遺言で排除するこ
ともできます(遺言廃除)。ただし、家裁は通常、この申し立ては慎重に審議し、
実際には相続廃除が認められることは少ないです。相続争いを自分にとって有
利に導く方策ではなく、社会的な道義や公序を守る措置ともいえます。
誰に何を引き継がせるのか、それはなぜか、自分の死後に家族はど
うなってほしいか。事前に自分の意思を関係者に伝え、納得と合意を
得て遺言書(
第4章 ー 2
参照)を作成しておきましょう。特に家族間
の折り合いが良くない際にはお薦めです。
●
「欠格」は相続人としての資格を法的にはく奪することです。自分
が相続上の利益を得る目的で殺害・詐欺・脅迫や遺言の偽造、破
棄を行った人は、当然財産を引き継ぐ資格がなくなります。
●
「廃除」は、家庭裁判所の判断で相続権を失わせることです。
亡くなった方に対して虐待・重大な侮辱をした人や、著しい非行
がある人には、相続をさせないというものです。
〈会社株式の引き継ぎは慎重に〉オーナー没後の経営権争い続出
〈相続人から外す法的手続き〉家裁が認めるケースは少ない
〈 預貯金の引き出しにも制限 〉
〈相続争いを防ぐ対策 〉
亡くなる前に全相続人が納得するような内容で意思表明をし、
遺言書を作成
〈遺産分割が済んでいないと使えない優遇・特例措置〉
1. 申告期限から3年以内に遺産分割協議が調った場合に限り
適用できる
● 配偶者の税額軽減
● 小規模宅地等についての特例
2. 当初申告時に限り適用できる措置
● 農地、山林、非上場株式の納税猶予
● 物納
上記の特例が受けられないと、分割協議成立まで一時的にでも申告
期限までに高い税額を納付しなければなりません。
分割協議が調わない時、将来、配偶者の税額軽減や小規模宅地の特
例の適用を受けるためには、申告期限までに「申告期限後3年以内の
分割見込書」を提出しておくことも必要です。訴訟等のやむを得ない
事情がある場合には、3年経過後も必要な手続きをすれば救済措置が
あります。
第4章
1
遺産分けで相続人どうしが揉めて分割協議が成立しないと、税額
を大きく減らせる優遇・特例措置の多くが受けられなくなります。
オーナー経営会社では、後継者への引き継ぎがうまくできず、経営
権が分裂してしまうこともあります。「仲良きことは美しきかな」
は相続を成功させるためのコツともいえます。
遺産争いは損、仲良きことは得
遺産分割での争い
4
家
族
の
た
め
に
将
来
の
相
続
に
備
え
る