信託銀行、あるいは友人など第三者の個人だけでなく、家族などを
信託の受託者として財産を預けることもできます。受託者である子な
ど相続人が受益者にもなるわけで、「家族信託」といいます。本人も受
益者になれます。「家族信託」では受託者への報酬は普通ありませんが、
信託銀行に受託者を依頼すると、信託報酬がかかります。この信託に
より、たとえ心神喪失状況になっても、財産の管理や売却を子たちの
意思で自由に行えます。
現金が財産の大半でも信託は有効
仮に相続財産のほとんどが現金の場合は、納税資金に余裕がある
から「信託」は全く不要になるのでしょうか。
そんなことはありません。
なぜなら、本人が朦朧となっても、110万円まで非課税になることを
活用して毎年贈与を積み重ねるなど、家族などの受託者の意思で存
命中は相続対策が継続できるからです。
ただし、お亡くなりになる前3
年内の相続人への贈与分は「みなし相続財産」(
第6章ワイド版「知っ
得話」その1
参照)として相続財産に含まれますので注意が必要です。
税務のプロが語る
「知っ得話」
〈このケースでの信託活用策〉本人と相続人を受託者にして信託
父親が所有の不動産に対して、次のように信託設定をします。
委託者 = 父親A
受託者 = 子2人と父親A(自分自身)の計3人
受益者 = 父親A(自分自身)
→ 委託者が受益者側になる自益
信託の方式
〈信託とは 〉信託銀行などに財産を預け管理を委託
〈自益信託とは〉委託者本人が受益者となるのが自益信託
〈このケースでのリスク〉
信託なしでは本人衰弱の際に相続対策頓挫
財産を所有する委託者が信託契約などによって、信託銀行や信頼でき
る個人など受託者に預金や不動産などの財産を預け、子や孫などの受
益者のためにその財産の管理・処分などを代行してもらう制度です。
相続では自分の財産を信託契約や遺言で受託者に預けます。受託者
は委託者(財産の所有者)の決めた目的に従って、相続人のために委託
者に代わり財産の管理をしたり、売却したりします。主に信託銀行が
相続に関する信託を扱っています。個人を受託者にして信託契約を結
ぶこともできます。
他人のために財産を信託する通常の「他益信託」の場合、受益者側に
不動産の実質的な所有権が移ったり、地代や配当などが渡ったりしま
す。このため家族であっても受益者側に信託契約時点で贈与税や譲渡
所得税がかかります。しかし「自益信託」の場合、相続時点までそうし
た課税はありません。
この先、様々な相続対策を始めるとしても、所有者Aさん本人が万
が一心身衰弱の状況になってしまうと、相続対策がそこでストップし
てしまいます。頓挫したまま亡くなれば、子に莫大な相続税がかかる
可能性があります。
注)不動産の信託の場合には、「信託の登記」が必要になります。
第4章
〈ケース〉
店の経営を 2 人の子に任せて久しいAさんは最近、物忘
れが目立っていました。子のBさんが医者に連れていったところ、
認知症の入り口といえるので予防に努めるよう助言されました。A
さんは評価額で 5 億円ほどの土地を所有していましたが、店の運転
資金などに追われて現預金はほとんどありません。先行き相続に直
面すると、納税資金の工面で店の継続も危うくなりそうです。そこ
で税務のプロに相談すると、「信託」という方法であらかじめ準備する
策を薦められました。
17
家族信託で将来の納税に備える
信託を利用した相続対策
4
家
族
の
た
め
に
将
来
の
相
続
に
備
え
る