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税 務
外国税額控除の概要
税経管理第7部 部長 松村 恭男
海外取引がある会社や、海外で所得が発生する会社において、「外国税額控
除」を効果的に活用できる体制を確立することが、グループ内の資金移動に伴
う税務コストを低減させる税務戦略として大変重要となっています。
<外国税額控除とは>
この「外国税額控除」とは、どのような制度なのでしょうか。
「外国税額控除」とは、「国際的な二重課税を排除するために、日本の内国
法人や居住者が外国で納付した税額を、一定の限度額の中で、その法人や居住
者が納付すべき所得税額又は法人税額から控除する」制度です。
たとえば、海外投資によって受け取る利子や配当、使用料などに対して、外
国で課される源泉所得税などは、外国税額控除の対象となります。
この「外国税額控除」は、大きく分けて「直接外国税額控除」と、「間接外
国税額控除」の二つに分けることができます。
「直接外国税額控除」とは、「居住者や内国法人が海外で直接納付した外国
法人税額を、税額控除の対象として、日本の所得税額や法人税額からの控除を
認める」制度です。
一方、「間接外国税額控除」とは、「国内の親会社が、外国子会社から利益
の配当などを受けた場合、その外国子会社が納付した税額のうち、その配当な
どに対応する部分の金額を、その親会社が納付したものとみなして、外国税額
控除の対象と認める」制度です。
このほかに、「開発途上国等において自国の経済開発促進の為に外国企業の
誘致の手段として租税の減免措置がとられた場合、租税条約の規定により、そ
の減免措置がなかったとしたならば納付したであろう租税を外国法人税額とみ
なして外国税額控除を行う」制度があります。これを「みなし外国税額控除」
または「タックス・スペアリング・クレジット」と呼んでいます。
<外国税額控除の控除限度額>
日本の税金から控除される外国税額は、外国で払った税金のすべてというわ
けではありません。
日本の税金から控除できる外国税額は、次の過程により計算されます。
1.外国税額控除の対象となる税金であること。
2.その外国税額が、「高率負担部分」でないこと。
3.上記要件を満たした外国税額のうち、控除限度額の範囲内(下記計算式参
照)で、日本の税金から控除できることになります。
まず、「外国税額控除の対象になる税金」とは、基本的に、日本の法人税な
どのように、所得を課税標準として課税される税金となります。逆に、消費税
や関税などは対象に含まれません。また、納税者が納付後に還付請求を自由に
行うことができる外国税なども、外国税額控除の対象から除かれること
になります。
次に、「高率負担部分でないこと」とは、原則として、外国法人税額のうち、
税率が50%を超える部分の金額は、外国税額控除の対象から除かれるというこ
とです。また、利子等に対して10%の税率を超えて課税された場合、その10%
を超える部分は、原則として、外国税額控除の対象から除かれます。
そして、上記の要件を満たした外国税額の、「日本の税金における控除限度
額」は、たとえば法人の場合、「その法人のその事業年度の法人税額に、その
事業年度に国外で生じた所得金額の、全体(国内+国外)に対する割合を掛け
て計算した金額」になります。
<外国税額控除の限度額等の繰越>
当期の国税の控除限度額を超えた外国税額は、翌年以降3年間繰り越すこと
ができます。
まず、外国税額控除は、法人税や所得税といった国税だけではなく、地方税
にも認められています。そのため、国税で控除限度額を超えた外国税額は、ま
ず地方税から控除されることになります。
ここで、地方税の控除限度額も超えて、それでも控除しきれない場合があり
ます。その控除しきれない金額を「控除限度超過額」といいます。
そのような「控除限度超過額」、言い換えれば当期に国税と地方税から控除
しきれなかった控除対象外国税額は、翌年以降3年間繰り越すことができ、繰
り越した年度に、その年度の「控除余裕額」の範囲内で控除することができる
のです。
「控除余裕額」とは、外国税額が国税の控除限度額より少なかった場合、そ
の差額をいいます。「控除限度超過額」が前年から繰り越された場合、その年
の「控除余裕額」の範囲内で、前年の外国税額が控除できるのです。さらに、
この「控除余裕額」も、翌年以降3年間繰り越すことができます。
<間接外国税額控除とは>
「間接外国税額控除」とは、どのような制度なのでしょうか。
たとえば、ある日本の会社が、海外に現地子会社を設立する場合を考えてみ
ましょう。
現地子会社の所得は、現地国で課税され、その子会社は外国法人税額を納付
します。一方、日本の親会社が日本で申告するときは、その現地子会社の所得
には含めません(別会社だからです)。日本の法人税額には子会社の所得に関
するものは含まれていませんので、二重課税もなく、一見良さそうに見えます。
ここで、現地子会社が利益の配当を日本の親会社にしたとき、どうなるので
しょうか。
子会社が出す配当は、外国法人税が課された後のものですが、それを受ける
親会社にとっては、その配当は受取配当金として、その親会社の収入になりま
す。そして、親会社の日本での申告の時に、やはり課税対象となります。
つまり、いったん外国で課税されたものに、また日本でも課税されてしまう
わけです。
そこで、その外国子会社の所得に対して課された外国法人税のうち、親会社
である内国法人に支払われた配当に対応するものを、その親会社が納付したも
のとみなして、親会社の申告上で外国税額控除の対象としているのです。
これは、その親会社が直接外国法人税を納付していませんので、「間接外国
税額控除」と呼ばれています。
間接外国税額控除の適用の対象は、上記の外国子会社だけではなく、外国孫
会社まで対象となっています。ただし、子会社も孫会社も、持分割合や保有期
間など、一定の要件があります。この要件を満たした外国子会社や外国孫会社
から配当を受けた場合にだけ、「間接外国税額控除」の適用を受けることがで
きるのです。
<みなし外国税額控除とは>
「みなし外国税額控除」は、「タックス・スペアリング・クレジット」とも
呼ばれています。これはどういう制度なのでしょうか。
海外での所得の源泉地が、開発途上国であった場合を考えてみましょう。
開発途上国においては、自国の経済開発促進のため、外国企業の誘致を図り、
その手段として誘致しようとする外国企業に様々な特典を講じます。その一環
として、税金の面からも、その外国企業の特定の所得に対する法人税額の減免
措置を講じる場合があります。
ところが、たとえば日本の会社がある開発途上国に子会社を設け、この制度
によりその進出先の国で外国税額が減免されたとします。しかし、その会社が
日本で課税される場合、どうなるでしょうか。
その会社は内国法人なので、全世界の所得に対して課税が行われるわけです。
これでは、せっかく開発途上国で税金の減免措置を講じてもらっても、全体の
税額の減免効果が全く得られないことになります。
そこで、開発途上国での減免の措置を有効に機能させるため、その開発途上
国との租税条約の中に、「タックス・スペアリング・クレジット」という制度
を盛り込んでいる場合があります。
具体的には、開発途上国で減免された外国税額(実際には納付していない外
国税額)を、あたかも納付したものとして、本国での外国税額控除の適用を受
けるというものです。実際に納税していないものを納付したものとみなします
ので、「みなし外国税額控除」と呼ばれています。
この適用については、直接税額控除のみに認めるものと、間接税額控除にも
認めるものがあり、それぞれの租税条約に定められています。
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