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税 務
会社分割
「企業組織再編ツール」
税経管理第2部 部長 並木
会社分割とは |
会社分割とは、企業組織再編の一つの手法で、既存の会社の事業の全部または
一部を分割して、他の会社に移転する手法のことです。分割される会社を「分割
法人」、事業を承継する会社を「分割承継法人」といい、分割承継法人は、分割
法人からの事業の移転を受け、その対価を分割法人に対して支払い、会社分割が
完了します。
不採算部門の切り離しや部門の分離・統合でスケールメリットを求める場合、
成長部門の子会社としての独立化、持ち株会社化等、経営効率を高めるための企
業の再編成などに利用されます。法人の事業部門の全部を移転すれば、実態上は
「合併」と同様の効果が得られますが、合併と大きく違うところは、引き継ぐ事
業範囲を任意に定められるということです。合併の場合は、すべての事業を会社
ごと承継するため不要な資産や偶発的な債務も一体で承継してしまいますが、分
割の場合は引き継ぐ事業とそれに対応する債権債務を調整できるため、こういっ
た問題を回避することができます。
会社分割制定の背景 |
企業が勝ち残っていくためには、経済的変化に対応して企業組織再編等により
経営資源を適切に再配分・再投入することが求められます。近年の経営環境の大
きな変化により企業組織再編を迅速かつ容易に行える制度が要望され、平成12年
5月の商法改正により、会社分割制度が導入されました。これをうけて平成13年度
法人税法改正により企業組織再編(合併・会社分割・現物出資・事後設立)に関
して優遇処置が整備されました。これにより一定の要件を満たすこと(税制適格)
で、従来課税されていた資産の移転や株式の譲渡等を非課税で行うことができる
ようになり、繰越欠損金の引継ぎや資産の含み損の引継ぎもできるようになりま
した。
会社分割の形態 |
会社法上の分類では、分割承継法人が、新設法人か既存会社かで、
@「新設分割」=分割承継法人が新設法人
A「吸収分割」=分割承継法人が既に存在する他の法人
に分類されます。
商法上の分類では、会社分割による対価(分割承継法人の株式等)を分割法人に割
り当てるか分割法人の株主に割り当てるかで、
@「物的分割」=株式等を分割法人へ割り当てる
A「人的分割」=株式等を分割法人の株主へ割り当てる
に分類されます。
法人税法上では、
@物的分割=「分社型分割」
A人的分割=「分割型分割」と呼びます。
よって分割のパターンは大きく分けて次の4種類となります。
A、新設物的分割 = 新設分社型分割
B、新設人的分割 = 新設分割型分割
C、吸収物的分割 = 吸収分社型分割
D、吸収人的分割 = 吸収分割型分割
法人税法上の取扱い |
適格分割
分割による資産移転の前後で経済的な実体や支配関係が変わらないような一
定の基準を満たす場合は、例外的に適格分割と呼ばれます。移転資産の簿価によ
る引継ぎを行うことにより課税関係が生じない仕組みがとられています。
分割法人は移転した資産・負債をその分割事業年度の終了時の税務上の帳簿価額
により分割承継法人に譲渡したものとして取り扱いますので、資産の移転損益は発
生しません。分割承継法人は、分割法人より移転を受けた資産・負債を簿価による
受入として処理をします。その他、一定の引当金の引継ぎや一定の繰越欠損金の引
継ぎが認められており税務上のメリットがあります。
非適格分割
分割法人は移転した資産・負債を時価により分割承継法人に譲渡したものとして
取り扱います。分割承継法人は、分割法人より移転を受けた資産・負債を時価によ
る受入れとして処理をします。よって分割法人においては、資産の譲渡益課税が生
じる可能性があり、分割法人の株主についてもみなし配当課税や譲渡益課税が生じ
ることがあります。
その他の税金の取扱い |
1.資産の移転に伴う消費税
会社分割に伴う資産の移転は、消費税の対象となる対価を伴う譲渡とはされ
ず、消費税はかかりません。法人税法上の適格・非適格、会社分割の形態は問
いません。
2.登録免許税
会社分割による設立及び登記にかかわる登録免許税は1.5/1000で、通常の場
合の7/1000に比べて軽減されています。不動産移転登記の登録免許税も、
H23.3.31までは8/1000、H23.4.1〜H24.3.31までは13/1000と、通常の場合
の20/1000に比べて軽減されています。
3.不動産取得税
会社分割における不動産取得税及び自動車税は、次のすべての要件を満たす
場合には、形式的な所有権の移転として、法人税法上の適格・非適格を問わず
非課税とされます。
(1)分割型分割の場合
・分割法人の株主等に分割承継法人の株式以外の資産が交付されず、かつ分割法人
の株主等が保有する株式等の数の割合に応じて株式が交付されること
・分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること
・分割事業に係る従業員の8割以上に相当する者が分割後に分割承継法人の業務に
従事することが見込まれること
・分割事業が分割承継法人において継続的に営まれることが見込まれること
(2)分社型分割の場合
・分割法人に分割交付金が交付されない
以下、上記の分割型分割の場合の条件と同じ。
4.連帯納付
分割型分割により営業を承継した分割承継法人は、分割法人の国税(付帯税
を含む)について連帯納付の責任を負う。ただし分割法人から承継した財産の
価額を限度とする(国税通則法9条の2)。
会社分割の可能性 |
企業組織再編の一つの手法としての会社分割ですが、経営効率化だけではなくいろい
ろな利用方法が考えられます。新規事業を別会社で展開したい場合や欲しい部門だけを
切り取る企業買収の手法、会社を分割して事業承継に使う方法もあると思います。分割範
囲を任意に設定できるため自由度が高く、税制適格要件を備えれば税負担を軽くして別
会社に事業を移転することができます。会社分割は非常に複雑な手法ですが、会社組織
の切り貼りができるツールとして使いこなすことができたら、いろいろな可能性が広がっ
てくると思います。会社分割をお考えの方は、担当までご一報ください。
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