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The Limit
of The Sky No107. Page 3
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税 務
自 己 株 式
税経管理第1部 部長 宇野澤 雅男
平成18年5月1日より「会社法」が施行されました。
そこで「自己株式」の取得、保有、処分について非上場株式を中
心に取り上げてみました。
[1] 自己株式の取得
(1)取得事由・取得ケース
会社法では、株主との合意があった場合等、自己株式の取得
が容易になりました。
これにより、@株式譲渡制限会社がその譲渡を承認せず、株
主から株式の買取請求をされた場合やA会社が相続人に対して
相続された自社株の買取請求をする場合に、買取りが可能とな
ります。
また、次のような自己株式の有効な利用も考えられます。
@ 相続税の納税資金確保のため、会社に自社株を譲渡する。
A 多数の人に分散された株式を後継者に集めるため、会社が
自己株式を買い受ける。
B ストックオプションの付与や従業員持株会への譲渡に備え
て、会社が自己株式を買い集める。等
(2)取得手続
1.不特定の株主からの取得
会社は、株主との合意により自己株式を買い受けるには、次
の事項を株主総会(定時株主総会に限らず、臨時株主総会でも
可能)で決議する必要があります。
@ 取得する株式の種類及び数
A 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(その株式
会社の株式等を除く)の内容及びその総額
B 株式を取得することができる期間(1年以内)
2.特定の株主からの取得
自己株式を特定の株主のみから取得するときは、株主総会の
特別決議が必要となります。
なお、この決定をするときは、株主総会の2週間前までに、
株主に対し、自己もその売主に追加するよう求める権利(売主
追加請求権)があることを通知しなければなりません。
3.売主追加請求権の不適用
次の場合には、売主追加請求権の通知は不要となります。
@ 定款に定めた場合
A 取得する自己株式が市場価格のある株式である場合にお
いて、その株式の取得価格が市場価格以下であるとき
B 株主の相続人その他の一般承継人からその相続その他の
一般承継により取得した自己株式を取得する場合
4.手続不要の取得
株式の譲渡等承認請求を認めない場合に株式会社が取得す場
合など、通常の自己株式の取得の手続きを省略できる場合があ
ります。
5.財源規制
自己株式の取得においては、分配可能額を超えることができ
ないという規制があります。これを財源規制といいます。
但し、合併や企業分割、事業の全部の譲り受けにより取得す
る場合や、組織再編行為に反対する株主からの株式買取請求に
応じる場合などには、財源規制はありません。
(3)自己株式取得の会計処理
取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資
本の部から控除します。
自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計
算書の営業外費用に計上します。
(4)自己株式取得に係る税務処理
平成18年度の法人税法改正では、取得時には従来のような
資産計上はせず、一般的な有償取得である場合には、取得した
株式の種類に応じて資本金等の額から取得資本金額を減算し、
その金額を超える部分の金額については、利益積立金を減算す
ることとされました。
[2] 自己株式の保有
1.保有する自己株式の地位
自己株式については、次の株主としての基本的権利は行使で
きません。
@議決権、A剰余金配当請求権、B残余財産分配請求権 等。
2.法人税における自己株式の取扱
同族会社の判定では、自己株式を有する法人を株主から除き、
発行済株式数には自己株式の数を含みません。
[3] 自己株式の処分
(1)自己株式の処分方法
株式会社が取得した自己株式を処分する方法としては、消却
する方法と募集株式として譲渡する方法があります。
1.自己株式の消却
自己株式を消却する場合は、消却する自己株式の数(種類株
式発行会社は自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなけれ
ばなりません。なお、取締役会設置会社にあっては、この決定
は取締役会の決議によらなければなりません。
2.自己株式の譲渡
自己株式の譲渡は、新株の発行と合わせて募集株式の発行等
の手続きによります。
株式会社は、そのつど株主総会において募集株式について次
に掲げる事項を定めなければなりません。
@募集株式の数、A募集株式の払込金額またはその算定方法
B現物出資の内容及び価額、C払込期日、D株式を発行する
ときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
(2)自己株式処分における会計処理
1.自己株式を譲渡した場合
取得時に資産計上していないため、新株発行の場合と同様の
処理を行うこととなります。
@自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上します。
A自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額し、減額
しきれない場合は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)
から減額します。
2.自己株式を消却した場合
@自己株式を消却した場合、減額するその他資本剰余金又は
その他利益剰余金(繰越利益剰余金)については、取締役
会等の会社の意思決定機関で定められた結果に従い、消却
手続が完了したときに会計処理をします。
A自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計
算方法に従って、株式の種類ごとに算定します。
(3)自己株式処分における税務処理
1.税務上は、自己株式の取得時に消却したかのような処理を行
うこととなるため、実際に、自己株式を消却した際には、何ら
の処理も行わないこととなります。
従って、消却を行っても、税務上の資本の部には影響がない
ことから、基本的には別表の調整も必要ないと考えられます。
ただし、会計上「利益剰余金」を減額した場合等には、申告
調整が必要となる場合もあります。
2.譲渡した場合には、新株発行と同様の処理を行います。
以上簡単ですが、実行される場合には改正等留意して下さい。
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