前のページへ
The Sky's the Limit No.121 Page 2
次のページへ
税 務
中小企業の経営承継円滑化法の概要
税経管理第7部 部長 小島 政文
平成20年5月9日、「中小企業における承継の円滑化に関する法律」(経
営承継円滑化法)が成立し本年10月1日に施行となりました。
新たに創設されたこの法律は、1 遺留分についての民法の特例、2 金融
支援措置、3 相続税の納税猶予制度の3つが柱となっていて、文字通り、
中小企業の事業承継を円滑化するために障害となっている問題を取り除こう
とするための法律です。今回はこの新法の概要についてご紹介いたします。
<中小企業者の範囲>
業種区分 | 資本金・出資金 | または | 従業員数 |
製造業・建設業・運輸業そ の他の業種 |
3億円以下 | 300人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | |
政令で定める業種 | − |
1 遺留分についての民法の特例
(1)生前贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる制度の創設
事業承継においては、先代経営者の保有する株式等の事業用資産を、後継
者に円滑に承継する事が重要となります。しかし、生前贈与や遺言を活用し
ても遺留分の制約が存在する事で株式や事業用資産を後継者に集中すること
ができず、事業承継の障害となるケースもありました。
そこで、先代経営者の生前に、産業大臣の承認を受けた後継者が、遺留分
権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受ける事で、先代経営
者から後継者へ生前贈与された自社株式その他一定の財産について、遺留分
算定の基礎財産から除外できる制度が創設されます。これにより自社株式等
に係る遺留分減殺請求を未然に防止でき、事業継続に不可欠な財産の分散を
回避することができます。また、後継者が単独で家庭裁判所に申し立てる為
現行の遺留分放棄制度とくらべ、非相続者の手続きは簡素化されます。
◆遺留分とは 民法が法定相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人に保証している、遺言によっても害することのできない 一定割合の相続財産の事です。 ◆遺留分減殺請求権とは 相続人に保証されている遺留分が侵害されている場合、被相続人から遺贈された人や、生前贈与され た人に対し、侵害された遺留分の変換を請求できる権利です。 |
(2)生前贈与株式の評価額をあらかじめ固定できる制度の創設
遺留分算定の基礎財産には、生前に贈与された財産も合算され、特に子供
や配偶者への贈与については原則として何年前のものであっても合算の対象
となります。しかし、合算される贈与財産の評価時点は贈与時ではなく相続
開始時となるため、後継者に生前贈与された株式の価値が後継者の貢献によ
って上昇した場合でも、遺留分減殺請求の対象となってしまう為、後継者の
経営意欲の阻害要因となります。そこで、経済産業大臣の確認を受けた後継
者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受ける事
で、遺留分の算定に際して、生前贈与株式の価額を合意時の評価が上昇した
場合でも、相続発生時の遺留分の算定については、後継者の貢献によって上
昇した株式評価は減殺されない為、経営意欲の阻害要因を排除できます。
2 金融支援措置
中小企業の事業承継時には、分散した株式・事業用資産の買取資金や、相
続税納税資金など、多額の資金需要が発生します。また、経営者の交代によ
って信用状態が悪化し、金融機関の借り入れ条件や取引先の支払い条件が厳
しくなることも予想されます。そこで経営者の死亡等に伴い必要となる資金
の調達を支援する為、経済産業大臣の認定を受けた中小企業者及びその代表
者に対して、金融支援の特例が設けられます。
(1)中小企業信用保険法の特例
認定を受けた中小企業に対し、株式・事業用資産の買取資金や一定期間の
運転資金など、事業継続に必要な資金の借入を円滑に行えるように、信用保
証協会の債務保証制度について、普通保証、無担保保証、特別小口保証の別
枠を設けます。
(2)株式会社日本政策金融公庫法及び沖縄振興開発金融公庫法の特例
認定を受けた中小企業の代表者個人に対し、その中小企業の事業活動の継
続に必要な資金の貸付を可能とします。具体的には株式・事業用資産等の買
取資金や、相続税支払資金、遺留分減殺請求への対応資金等の資金調達を支
援します。
3 相続税の納税猶予制度
経営承継円滑化法の施行を受け、事業承継時の障害の一つである後継者の
株式に関する相続税負担の問題を抜本的に解決する為に、「取引相場のない
株式等に係る相続税の納税猶予制度」が創設されます。
これは、事業経営者に相続が発生し、事業の後継者となる相続人が当該会
社の株式を相続した場合に、一定の要件を満たせば、その株式に係る相続税
額の納税猶予を認める制度です。
取引相場のない株式等に係る相続税の軽減措置について、現行の10%評価
減方式から、80%納税猶予方式に大幅に拡充されるとともに、対象が中小企
業全般に拡大されます。 なお、本制度は平成21年度の税制改正において創
設されますが、経営承継円滑化法が施行される平成20年10月1日以降の相続に
溯って適用される予定です。
(1) 改正の概要
【自社株に係る10%減額措置(現行制度)】
<対象会社要件>
・発行済株式総額20億円未満の会社
<軽減対象の上限>
・相続した株式のうち、発行済株式総数の2/3または評価額10億円まで
の部分のいずれか低い額
![]() |
軽減割合を80%に大幅拡充 |
【自社株に係る80%納税猶予】
<対象会社要件>
・中小企業基本法上の中小企業とし、株式総額要件は撤廃されます。
<軽減対象の上限>
・ 軽減対象となる株式の限度額は撤廃されます。
・ ただし、発行済議決権株式総数の2/3以下の限度があります。
(2)対象となる中小企業
上記<中小企業者の範囲>図表に該当するもの
(3)対象となる被相続人
・会社の代表者であったこと。
・被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有し、かつ
同族内で筆頭株主であったこと。
(4)対象となる事業承継相続人
・会社の代表者であること。
・相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有し、かつ同
族内で筆頭株主となること。
(5)納税猶予、納税免除を受ける為の要件
@ 事業継続要件
相続税の納税猶予を受けた中小企業の経営者は、相続税の法定申告期限(相
続の開始があった事を知った日の翌日から10ヶ月)から5年間はその会社
の代表者として経営を行い、80%以上の雇用を継続させなければなりません。
従って、相続税の法定申告期限から5年間に「代表者でなくなる」「80%
以上の雇用を継続できなかった」「相続した対象株式の一部でも譲渡した」
など、事業継続要件から外れ、経済産業省から事業を継続していないと認め
られた場合には、その時点で納税猶予額に猶予期間の利子税も加えて即時全
額納付しなければなりません。
なお、5年間の事業継続状況の確認は、経済産業大臣所管においておこな
われます。
A 株式保有要件
相続税の法定申告期限から5年経過以後に納税猶予対象の株式を譲渡した
場合には、譲渡割合に応じて納税猶予額に猶予期間の利子税も加えて即時全
額納付しなければなりません。
つまり、事業承継相続人は原則として死亡時まで納税猶予の対象株式を保
有していないと、溯って相続税と利子税が課税される事となります。
B 担 保
納税猶予の対象となった株式等のすべてを担保に供する必要があります。
C 納税免除
事業承継相続人が死亡時まで継続保有した場合など、一定の要件を満たし
た場合に、納税免除になります。
D摘要除外会社
会社形態を利用した租税回避行為を防止する為、個人資産の管理目的会社
などは、本制度の摘要除外となる予定です。
※参考
納税猶予制度の創設に会わせて、相続税の課税の仕組みを現行の法定相続
分課税方式から、いわゆる遺産取得課税方式へ改めることを中心に、その他
相続税の総合的見直しが検討されています。
前のページへ
The Sky's the Limit No.121 Page 2 次のページへ