前のページへ
The Limit
of The Sky No.136 Page 2
次のページへ
税 務
平成23年度税制改正の概要
税経管理第3部部長 林
1 はじめに
平成23年度の税制改正大綱には、本来は抜本改革で取り扱うべき内容の大改
革が目白押しでした。中でも注目すべきは、やはり給与所得控除の見直しや中
小企業の軽減税率も含めた法人税率の引き下げです。
他にも注目すべき点が多々ありますが、全体の傾向としては、個人(特に富
裕層)の増税、法人税の減税ということとなりました。
以下では、今回の税制改正における主要改正点について触れていきます。
2 税制改正の概要(↑増税、↓減税、○納税者にプラス)
(1) 個人所得課税
↑@給与所得控除の見直しが行なわれ、控除額が年収1,500万円で頭打ち(給
与所得控除245万円)となる。又、現行制度は、一般従業員と法人役員等
の区別がないが改正案では、法人役員等の控除額は給与収入2,000万円か
ら4,000万円にかけて徐々に半減(給与所得控除245万円〜125万円)
(所得税はH24年分以後、個人住民税はH25年度分以後実施)
↓A特定支出控除については、見直し前は、特定支出が給与所得控除額を超え
なければ特定支出控除を適用できなかったが、見直しにより給与所得控除
額の半分を超えれば適用できるように改められる。又、特定支出の範囲も
拡大された。
(所得税H24年分以後、個人住民税はH25年度分以後実施)
↑B成年扶養控除は、23歳から69歳まで一律控除ではなく、障害者、学生や
所得400万円以下の納税者等に限定される。
(所得税はH24年分以後、個人住民税はH25年度分以後実施)
↑C退職所得控除については、在任期間5年以下の役員退職金を2分の1課税
の対象外とする。又、個人住民税の10%税額控除は廃止。
(所得税はH24年分以後、個人住民税はH24年1月1日以後に支払われる
退職手当から実施)
D配偶者控除の廃止は見送り。
E証券優遇税制は、2年延長の後、廃止。
(H25年12月をもって廃止)
↑F住宅特定改修特別税額控除は、既存住宅に係る特定の改修工事をした場合
の所得税額の特別控除を、下記の見直しを行った上で2年延長。
・バリアフリー改修工事 現行(20万円)、H23年(20万円)、H24年(15万
円)
・省エネ改修工事 補助金等の交付がある場合には、税額控除計算の際に
省エネ改修費用の額から補助金の額を控除する。
(バリアフリーH23年分以後 省エネH23年4月1日以後)
↑G電子証明書等特別控除は、税額控除額が現在5,000円となっているが、税
額控除額を引き下げた上で2年延長。
H23年分(4,000円) H24年分(3,000円)
(H23年分以後実施)
○H年金所得者の申告手続は、公的年金等の収入金額が400万円以下、かつ、
その他の所得が20万円以下の者の確定申告不要制度の導入。
(H23年分以後実施)
○I申告義務のある者の還付申告はその年の翌年1月1日から3月15日まで。
(H23年分以後実施)
(2) 法人課税
↓@法人基本税率が25.5%となり、中小企業の軽減税率(本則)は19%となり、
中小企業(特則)が15%となる。(H23年4月1日以後に開始する事業年度
から実施となるが、特則の15%は3年間限定)
↑A中小企業以外の欠損金の繰越控除が80%・9年となり、中小企業は100%・
9年となる。(H23年4月1日以後に開始する事業年度から実施)
↑B棚卸資産の評価の内、切り放し低価法が廃止となる。
(H23年4月1日以後に開始する事業年度から実施)
↑C減価償却制度は200%定率法となる。
(H23年4月1日以後に取得する減価償却資産より実施)
↑D貸倒引当金制度は、銀行・保険会社・中小企業に限定される。
(H23年度からH25年度にかけて段階的に縮小)
↑E一般の寄付金の損金算入限度額が資本基準額と所得基準額の合計の4分の
1となる。
↑F陳腐化償却制度が廃止される。
↑G試験研究に係る特別控除の特例の廃止(研究開発税制「総額型」の税額控
除限度額を30%から20%とする)
(期限の到来をもって実施)
↑H中小企業等基盤強化税制は廃止(中小企業投資促進税制におけるソフトウ
エアの取扱いを見直したうえで)
(期限の到来を持って実施)
I特定の資産の買換の場合等の課税の特例は、3年延長。
↓J雇用促進税制として、一定の雇用増を達成した企業は1人当たり20万円の
税額控除を受けられる(H23年4月1日からH26年3月31日までに開始
する各事業年度に実施)
↓K環境関連投資促進税制として、一定の環境設備等の取得等に対する30%特
別償却制度(H23年4月1日からH26年3月31日までに取得した設備から
実施)
(3)国際課税
↓@外国税額控除の見直しが行われ、外国税額控除の対象から除外される高率
な外国法人税の水準について、現行の50%超が35%超に引き下げられるな
ど、外国税額控除制度の適正化が図られる。
AOECD移転価格ガイドラインの改定等に伴い、国外関連者との取引に係る
課税の特例(いわゆる移転価格税制)について、見直しが行われる。
(4)資産課税
↑@相続税の基礎控除が3,000万円+600万円×法定相続人の数とされる。
↑A相続税の税率構造が最高税率55%・8段階となる。
↑B相続税の死亡保険金に係る非課税制度は500万円×法定相続人であるが、
法定相続人は、未成年者、障害者及び相続開始前に生計を一にしていた者
に限るとされた。
↓C相続人の未成年者控除は20歳までの1年につき10万円とされた。
↓D相続税の障害者控除は、85歳までの1年につき10万円(特別障害者は20
万円)とされた。
↓E相続人の連帯納付義務者の負担する延滞税は一定の要件の下、利子税に代
える。利子税は、全期間4.3%。
(@〜Eについては、H23年4月1日以後の相続について実施)
F贈与税の税率構造が最高税率55%・8段階(20歳以上の直系卑属の場合は
税率軽減)
↓G相続時精算課税制度の受贈者の範囲に孫を含め、贈与者の年齢要件を60歳
以上とする。(F〜Gについては、H23年1月1日以後の贈与について実施)
(5)消費課税
↑@事業者免税点制度は、現行制度に加え、前年の前半6ヶ月間に課税売上高
が1千万円を超える事業者を事業免税点制度の対象外とする。
(H24年10月1日以後開始する年又は事業年度から実施)
↑A仕入れ税額控除制度の95%ルールは、課税期間の課税売上高(年換算)が
5億円以下の事業者に限定。
(H24年4月1日以後に開始する課税期間から実施)
↑B環境関連税制等の改正で、地球温暖化のための税として石油石炭税に段階
的に次のものが上乗せされる。
原油・石油製品 2,800円/kl
ガス状炭化水素 1,860円/kl
石 炭 1,370円/1t
(H23年10月1日からH27年4月1日にかけて段階的に実施)
↓C環境関連税制等の改正で、航空機燃料税が18,000円/klに改正。
(H23年4月1日からH26年3月31日まで実施)
(6)市民公益税制(寄付税制など)
↓@認定NPO法人等に対する寄付は、所得税が税額控除40%となり、住民税
は税額控除10%となる。
(H23年分以後の所得税について実施)
↓A認定NPO法人の認定基準は、パブリック・サポート・テスト(PST)要件
が、緩和され、認定取消しに伴う取戻し課税が実施される。
(H23年4月1日以後に開始する事業年度から実施)
↓B認定NPO法人以外のNPO法人については、認定NPO法人以外のNPO
法人への都道府県又は市町村による条例指定寄付金の拡大がされた。
(H24年度分以後の個人住民税について実施)
↓C住民税の寄付金控除は、寄付金税額控除の適用下限を2,000円とした。
(H24年度分以後の個人住民税について実施)
(7)納税環境整備
○@国税通則法の見直し
国税通則法(第一条)の目的規定を改定し、税務行政において納税者の
権利利益の保護を図る趣旨が明確にされる。
各種税務手続きの明確化等について同法に規定が集約され、法律名が改正
後の法律の内容をよく表すものとなるよう、題名が変更される。
○A納税者権利憲章
「憲章」は、納税者の立場に立って、複雑な税務手続を平易な表現でわか
りやすくお知らせするとの基本的考え方に沿って、策定される。
「憲章」に記載される項目
(イ)納税者の自発的な申告・納税をサポートするため、納税者に提供さ
れる各種サービス
(ロ)税務手続の全体像、個々の税務手続に係る納税者の権利利益や納税
者・国税庁に求められる役割・行動
(ハ)納税者が国税庁の処分に不服がある場合の救済手続、税務行政全般
に関する苦情等への対応
(ニ)国税庁の使命と税務職員の行動規範
納税者権利憲章は、平成23年中に準備を進めた上、平成24年1月1日に
公表。
○B税務調査の事前通知
税務調査の事前通知について明確化・法制化が図られる。税務調査に先立
ち、原則として事前通知が行われるが、税務署長が正確な事実の把握を困
難にするおそれなどがあると認められる場合は事前通知は行われない。
○C調査終了時の手続
課税庁の納税者に対する説明責任を強化する観点から、調査終了時の手続
について明確化・法制化が図られる。調査結果等を簡潔に記載した文書が
交付される。
○D明確化
現行の調査実務上実施されている以下の手続について、法令上明確化が図
られる。
イ 納税者から提出された物件の預かり・変換等に関する規定
ロ 事前通知の内容に「調査対象物件」が明示されることと併せ、課税
庁が現行の「質問」「検査」に加え、調査の相手方に対し、帳簿書類
その他の物件(その写しを含む)の「提示」「提出」が求めることが
できることとされる。
ハ 法人税の取引先等に対する調査対象について、他の税目と同様に、
「帳簿書類以外の物件」が追加される。
○E更正の請求期間の延長
納税者による更正の請求期間(現行1年)が5年に延長される。
併せて、課税庁による更正の請求期間(現行3年)が5年に延長される。
これにより、法定外の手続により非公式に課税庁に対して税額の減額変更
を求める「嘆願」という実務慣行が解消されるとともに、基本的に、納税
者による修正申告・更正の請求、課税庁による増額更正・減額更正の期間
制限が全て一致することになる。
○F更正の請求範囲の拡大
当初申告時点で選択しなかった場合に事後的に適用することが認められず、
更正の請求とならない措置(「当初申告要件」がある措置)について、以下
のいずれにも該当しない措置については、「当初申告要件」が廃止される。
(イ)インセンティブ措置(例:設備投資に係る特別償却)
(ロ)利用するかしないかで、有利にも不利にもなる操作可能な措置
(例:各種引当金)
また、控除額等の金額が当初申告の際に記載された金額に限定される「控
除額の制限」がある措置について、更正の請求により、適正に計算された
正当額まで当初申告時の控除額を増額させることができるとされる。
○G理由附記の範囲の拡大及び記帳・帳簿保存義務の拡大
全ての処分について、理由附記が実施される(原則としてH24年1月から
実施)。ただし、現在、記帳・帳簿等保存義務を課されていない白色申告者
に対する更正等に係る理由附記については、記帳・帳簿等保存義務の拡大
と併せて実施される。(平成25年1月以後実施)
○H国税不服審判所の改革
平成22年度税制改正大綱の記述を踏まえ、国税の不服申立手続の見直しに
ついては、基本的には、現在、内閣府の行政救済制度検討チームで行われ
ている、イ「行政不服審査法の見直し」(審査請求への原則一元化、独立し
て職業行使を行う「審理官」の創設、証拠書類の閲覧・謄写のあり方、不
服申立期間のあり方等)や、ロ「不服申立前置の抜本的見直し」の方向性
を踏まえて検討が行われる。
I番号制度
可能な限り早期に導入することが望ましい制度である為、早期導入に向け
て検討が進められる。
以上が大まかな内容ですが、これからの国会審議によって変更が充分考えら
れますのでご注意下さい。詳細につきましては、各担当者にお気軽におたずね
下さい。
前のページへ
The Limit of The Sky No.136 Page 2 次のページへ