稲盛和夫「経営12カ条」に学ぶ
稀代の名経営者稲盛さんが逝去された翌月に本書は出版されました。遺稿かと思いましたが、調べてみると「経営12カ条」は京セラ社内や盛和塾ではすでにずっと前から教えられていました。
素晴らしい創業者でも、事業を適切に承継させることはなかなか難しいことです。ソフトバンク、ファーストリテイリング、日本電産、日本を代表する創業者が作った会社ですが、後継者へのバトンタッチがなかなかうまくいきません。
稲盛さんが65歳で京セラを後継者にスムーズにバトンタッチできたことに、 本書は大いに貢献したと思います。次の経営者も経営12カ条を基本に据えて、よい経営をされたのでしょう。
「経営12カ条」は、ドラッガーの「現代の経営」や一倉定の「経営計画」など、経営者を志す人が読むべき書籍と同列に並ぶ役立つ一冊です。
稲盛さんは本書のまえがきに「物事の本質に目を向けていくなら、経営はシンプルなものであり、その原理原則さえ会得すれば、誰もがカジ取りできるものだと思うのです」と書いています。経営の本質がわかっているのですね。本書は、各条の意味・例示・要点・Q&Aで1条ずつ書かれており大変読みやすいです。
第1条に「事業の目的、意義を明確にする」を掲げます。なぜその事業を行うか、そこから事業の目的を考え、さらに多くの従業員を糾合するにはその目的に公明正大な「大義名分」がなくてはならないことを説きます。ミッションとして「全従業員の物心両面の幸福と人類社会の進歩発展への貢献」を京セラは掲げます。全従業員が自分のために社会のために働くミッションですので、その通りの経営がなされていれば全社員の使命感、やる気の力は大きいです。
公明正大な「大義名分」の重要性は、「国民のために電気料金を安価にしたい」というミッションで通信事業に参入したKDDIが成功し、損得勘定で通信事業に参画した大企業系の他の通信会社が敗れ去った事実にも示されています。
これまでの経験から、私も個人的な欲求だけでは会社も個人も長期の努力をし続けることには限界があると感じます。やはり自己実現の中にも世のため人のためという自利利他の面もないと、人は全力投球し続けることは難しいのです。
通信事業参入に際して、稲盛さんは「動機善なるや、私心なかりしか」と徹底的にご自分に問うたそうです。ここがしっかりして初めて自分の判断に自信が持て、全力で事に当たれます。ぶれなくなるわけです。
この問いは重要で、経験上私も経営判断に当たっては、松下翁の言う「素直な心」で対しているか、「動機善なるや、私心なかりしか」 と自分に問うことで正しい決断ができると思います。加えて、少年漫画に出てくるフレーズのようですが、「愛と知恵と勇気」を持って対しているかも私は大事だと考えています。
第2条の「具体的な目標を立てる」では、高い目標を掲げるならそれに見合った心構えと準備が必要なことを社員に説くべき点に気づきがありました。
第3条の「強烈な願望を心に抱く」から第12条の「常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で」まで、すべての項目が出色で、よい経営の指針になります。ナポレオン・ヒルや松下幸之助他の影響も受けながらそれらを自分なりに消化して、自分の体験に照らして考えに考えて磨いた12カ条です。書籍を購入しなくても、「稲盛和夫OFFICIAL SITE」で本書の要旨は読めます。
稲盛和夫 OFFICIAL SITE (https://www.kyocera.co.jp/inamori/management/twelve/index.html)
雑誌「致知」の2022年12月号で「追悼稲盛和夫特集」が組まれていました。そこで登場する京セラ元社長の伊藤氏は「稲盛だったらこの場面でどう言うか」が判断基準だったと語っていました。
日本電産会長の永守氏は、同じ京都の経営者として稲盛氏を目標に励んで来ました。仕事に対する両者の姿勢はよく似ています。10兆円企業を作って彼を超えて恩返しをするとの言やよし。「できるまでやる」日本電産イズムは健在です。
ファーストリテイリング会長の柳井氏は、燃える闘魂、自分自身への期待・可能性を信じることの重要性を稲盛氏との共通認識としてあげていました。絶対に負けるものかという激しい思いが経営には不可欠であると。
稲盛さんの著書で経理について書いた「稲盛和夫の実学」は、経営のための会計学を説いています。会計は経営の中枢であるとの思いをもち、「会計がわからんで経営がわかるか」の気持ちで出版したといいます。
木村会計では、新入社員の入社時に、この「稲盛和夫の実学」と問題解決のバイブル「大前研一 企業参謀」を学ぶようにとプレゼントしています。
よいお年をお迎えください。