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労 務

ケーススタディで考える
誤認されやすい労災申請と事業主の責務

千葉支部 戸枝正紀

「ケーススタディ(事実関係)」

労働者が帰宅途中に交通事故に遭い、事故日より入院しています。

事故現場は労働者から提出されている最も合理的な通勤経路(自宅方向)とは真逆の方向でしたので、その理由を後日確認したところ、友人との食事場所に向かう途中でした。事故日から数日後、労働者の両親より「通勤途中の事故のため会社が労災申請をしなければならないのですぐに申請して下さい」と連絡を受けました。今回の場合は労災になるのでしょうか?また、私用都合の際の事故と考えている会社が労災申請しなければいけませんか。

「事業主(会社)の判断」

今回のケースは通勤途中ではなく私用都合の際の事故と判断し、「会社としては労災とは認めがたいので労災申請の原則に基づいて労働者から労災申請を提出していただき、会社は必要な証明等の協力をします」と回答しました。

「労働基準法による検討」

1.誤認されがちな労災申請

労災のため『今回は通勤災害と主張されているが』会社が労災申請しなければならないのか。

労災の申請は、労災を利用したい本人(又は遺族)が労働基準監督署長に請求書を提出することが原則です。(労働者災害補償保険法施行規則13条1項)

条文では、労災を申請する者は、労災を利用したい本人(又は遺族)であり、事業主ではありません。 本人の意思で労災申請できます。

2.事業主(会社)の責務

事業主に労災申請の義務はありません。

しかしながら、本人(又は遺族)の保険給付手続きが困難な場合には、事業主はその手続きを行うことができるように助力しなければなりません。

また、保険給付を受けるために必要な証明を求められた時にはすみやかに証明しなければなりません。(労働者災害補償保険法施行規則23 条1・2 項)

この23条から、事業主が窓口となって労災申請を行うことが多く、それが義務と誤認されています。

3.事業主(会社)の適切な対応

労働者より労災申請の報告・相談があった場合には、労働者の意思・事実を確認したうえで誠実に対応することが必要です。

もっとも、労災事故であるのか疑わしい場合には安易に対応すべきではありません。事業主としては労災とは考えられず、労災申請が不本意なときには毅然とした対応をすべき場合もあります。

事実かどうか疑わしい記載内容の労災申請に事業主が記名してしまうとその記載内容の存在を認めていると判断され、後々事業主に不利益な結果となる可能性があります。

労働者の意思・補償を優先に対応しますが、労災申請が疑わしい場合は対応をしない決断をすることも大切です。

事業主として労災ではないと考えている場合に労働者より労災申請が提出されたときの基本姿勢は、事業主の責務を履行したうえで、自社の見解とその根拠をしっかりと労働基準監督署に伝えます。労災認定は労働基準監督署長が行いますのでその判断にゆだねることです。

労災を起こさない事前の予防対策も重要です。

事業主は業務上、労働者の生命・身体・心身の健康を害さないように配慮する義務があります。事故防止は勿論のこと、長時間勤務に因る健康障害、ハラスメントに因る精神的健康被害等、日常から安全で働きやすい環境づくり(安全配慮義務)が必須となります。

この安全配慮義務を怠った場合の責任は重く、損害賠償の民事責任、刑事罰及び行政上の責任、社会的信用の失墜があります。

適切な対応とは言えない『労災隠し』と呼ばれる労災申請自体を阻止する行為も見受けられます。労災隠しは単に事業主が労災申請をしないということではありません。労災申請は労働者本人が出来るにも関わらず、事業主が何らかの圧力をかけ、労働者本人からの申請も阻止していると見られる可能性があります。

労災が発生した際には、労働者並びに事業主(会社)自身のためにも、適切な対応が求められます。

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